2008年 09月 04日
タスマニアからの来訪者 |
父さんが夕方の散歩の前にどこかに出かけていって、知らない人を連れて戻ってきたの。父さんみたいに、黒い箱肩からぶら下げてるの。
一緒にドッグランに行ったら、その人、わたしたち犬みたいにちょこまかちょこまか動き回って、わたしやワルテルや父さんや母さんの写真撮るの。
ワルテルも不審がっちゃって、「ねえ、ねえ、あの人だれ? ストロボばしばし光らせてうざったいんだけど」って父さんに訴えに行ったの。
「だれって、マナブっちだよ」
って父さん言ったの。
マナブっちさんはね、オーストラリアのタスマニアって島に住んでるフォトグラファーなの。父さんの大好きな写真撮る人なの。
用事があって一時帰国してるんだけど、どうしてもわたしたち家族の写真が撮りたいからって押しかけてきたの。
「泣けるぐらい素敵な家族写真撮るって約束だからな、マナブっち。だから、家に泊めてやることにしたんだからな、忘れるなよ、マナブっち」
父さん、ちょこまか動いて写真撮り続けるマナブっちさんにプレッシャーかけまくるの。マナブっちさん、ちょっと泣きそうな顔になりながら黒い箱構えるの。なんだか可哀想で可愛いの。
次の日の朝はね、やっぱりいい写真撮ってもらいたいからって、追分ってところにある御影用水っていう貯水池に行ったの。貯水池の脇に遊歩道があって、景色が綺麗ですごく素敵なところなの。
マナブっちさん、夢中になって写真撮ってて、間違えてレンズのリリースボタンってやつを押しちゃったらしいの。それに気づかないでちょこまか動きながら写真撮ってて、少しずつ、レンズとカメラを繋ぐマウントっていうところが緩んでいってたらしいの。
「あ”っ!!!!!」
って声が聞こえたの。振り返ったら、レンズが落ちるところだったの。レンズ、アスファルトの上に落ちて、2回バウンドしたの。
すっごい高いレンズなんですって。マナブっちさんのカメラの2倍もするレンズなんですって。それがアスファルトに落ちて、2回もバウンドしたの。
「修理できるかな? いや、これはもう、お釈迦だな~」
マナブっちさん泣きそうになってるのに、父さん、その横で嬉しそうに笑うの。嬉しそうに落ちたレンズ見つめて泣くのを我慢してるマナブっちさんの写真撮るの。マナブっちさんのレンズ、マウントってところが歪んじゃって、もう、カメラに取り付けることもできなくなってたの。
わたしたちの父さんは、正真正銘のどSなの。
マナブっちさんは必死で泣くの堪えて、お昼前に帰っていったの。父さん、その後ろ姿見送りながら「絶対、新幹線でひとりになったら泣くぞ、マナブっち。ああ、その写真も撮りたいなあ」って言ったの。
ひどいと思ったけど、マナブっちさんも父さんにいぢめられて嬉しそうだったからいいの。
マナブっちさんは正真正銘のどMなんですって。
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by walterb
| 2008-09-04 09:40
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