接近戦 |
普段は走り回ってるぼくたちや、風景の中に溶け込んでるぼくたちを撮ることが多い父ちゃんだけど、時々、「おーし、今日はポートレイト撮るぞー」なんて言っちゃって、妙に張り切ることがあるんだ。
薄曇りの日が多いかな~?
まあそれはそれとして、モデル稼業の長いぼくたちだけど、お澄ましポートレイトは苦手なんだ。だって、普段は好き勝手に動き回ってるんだよ。ここぞという時にはポージング決めるけど、父ちゃん、結構遠いところにいたりするしね、それほど緊張することもないんだ。
でも、お澄ましポートレイトの時は、父ちゃん、カメラかまえたままぐぐぐーってぼくたちに接近してくるの。これがどうにも苦手なんだよね。
どうせなら望遠レンズ使って遠くから撮って欲しいんだけどさ「馬鹿たれ。今、父ちゃんは燃えておるのだ。おまえたちの綺麗で格好良いポートレイトを撮ろうとパッションが燃えさかってるのだ。ここでレンズ交換なんかしたら、そのパッションが冷めちゃうじゃないかっ!」って、父ちゃん、聞く耳持たないんだよね~(溜息)。
「おお、ソーラ、可愛いなあ~」なんて猫なで声が聞こえてきたら要注意だよ。そういうときは大抵、父ちゃん、ポートレイト病を発病してるんだ。
「ソーラ、いい子だな~。マージもいい子だったしワルテルもいいやつだけど、素直で可愛くて賢いって言ったらソーラが一番だな~」
なんて臆面もなくソーラに語りかけててさ、すると、最初はレンズが近くて緊張してたソーラの顔がゆるんでくるんだ。すっかり父ちゃんにやられちゃうんだよね。
ソーラが終わったらぼくの番だよ。
「ワルテル、こっち来いよ」なんて言ってさ、写真撮るんじゃないよ、撫で撫でしてやるだけだよってふりするんだ。でも、ぼくにはお見通しだよ。だから、できるだけ時間かけてゆっくり父ちゃんのところに行くんだ。嫌だけど、父ちゃんの命令、無視するわけにはいかないからさ。で、父ちゃんがレンズ向けてきたらそっぽ向くんだ。
「ワルテル、相変わらずいい男だな~。ハンサムだな~」
ほら、猫なで声がはじまった。
「なんつーかな、バランスが取れてるってこともあるんだけど、おまえがハンサムなのは目のおかげだな。うん。目力がある。人間みたいな目だ。だからワルテルは世界一ハンサムなバーニーズなんだよな~」
なんかね、父ちゃんの猫なで声って催眠術みたいなんだ。絶対言いなりにはならないぞって思ってるのに、父ちゃんの声聞いてると、嬉しくなってくるんだよね。
「ワルテルは父ちゃんの自慢の犬だからな~」
来ちゃったよ。ぼく、「自慢の犬」って言葉に弱いんだ。それ聞くと、なんだか知らないけど楽しくなっちゃうんだ。
気がついたら、カシャッ、カシャッって音がカメラからしてきて、結局写真撮られちゃってるんだよね。
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